借金の返済は完済するまで無くならない?

「無い袖は振れない」
こんなことわざ、ご存知ですよね?

意味は、もちろん、持っていないものは出せないという意味です。
法律の世界では、このことわざ原則として通用するんです。

例を挙げてみますと、中古車の購入をイメージしてみてください。

中古車というものは基本的に指名買いです。
メーカー、車種、グレード、カラー、装備、コンディション・・・
これらを精査した上で、
「あそこに置いてある、あの車ください」となります。


なぜなら、その車は、世界中探してもそれ1台きりですから。
新車であれば、製造している限り同じものは買うことはできますが、
中古車は既に登録しており、その仕様、コンディションは唯一無二のものです。

ですから、納車前に、その中古車が天災・人災問わず、どうしようもないぐらい壊れて納車できなくなったとしたら、それは、「無い袖は振れない」状態なんです。

もちろん、その壊れた理由如何では損害賠償の話も出てきますが、
その中古車に関しては「無い袖は振れない」わけです。

ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、
事お金に関してはこれが通用しないんですね。

金銭債権の特則(民法419条)

民法の419条にこんな規定があります。

民法419条
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

これは、「金銭債権の特則」と呼ばれる規定です。
債権の中でも、金銭の場合は特別の定めがあるということです。

ここでは1項にだけ注目しましょう。

お金が世の中からなくなることはあり得ない・・・

と言いつつ、言いたいことは条文には書かれていないのですが、
お金の債権債務とは、つまり借金をして返すという話ですね。

このお金についての債務不履行というのは、
「無い袖は振れない」ということは考えないということが前提となっているのです。

どういうことかというと、
一度借金をして返済をする際、途中で「無い袖は振れない」で許してもらえることはない、
ということです。

「自分、まだ借金はあるけど、お金がないんで許してください」は法律的にはないと考えます。
さらに法律は「金がないなら、工面して返さなければならない」と考えるのですね。

それは、「お金はこの世からなくなることはあり得ない。債務があるのだったら、世界中から工面して返さなければならない」という価値観から生まれているのです。

他の物に関しては、限りある命という考え方ですが、
お金に関しては永遠に消えぬものと考えられているのですね。

ですから、お金に関しての債務不履行というものは、返済が遅れた場合にだけ妥当すると考えられています。